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のんびりすぎる走りっぷり!JR西日本 山陽本線 岩国7時16分発 下関行。〜残念時刻表を読み解く超ニッチ企画!~「渡辺雅史の残念な鉄道時刻表」第11回

なぜこんな時刻表(ダイヤ)になったのか? 残念時刻表を読み解く超ニッチ企画第11弾!
※時刻表は記事最後に掲載


山口県の瀬戸内海側を東西に貫く山陽本線。この路線の時刻表を見ると、広島県との県境に近い駅の岩国から九州の手前にある駅の下関までを乗り換えなしで結ぶ普通列車が多数運行されていることがわかる。岩国→下関の本数は16本、下関→岩国は17本。この区間の距離は182.0キロ。東京〜静岡(180.2キロ)とほぼ同じだ。

「青春18きっぷ」が販売されるシーズンになると「いつまでたっても静岡県を抜けない」「静岡県が東西に広すぎる」といった、東京から名古屋、大阪へ普通列車で移動されていると思われる方のコメントをSNSで見る機会が増えるが、東海道本線の静岡県の最東端の駅である熱海から最西端の新所原182.1キロ。山口県とほぼ同じ距離なのに「いつまでたっても山口県」との声が出ないのは不思議な現象である。なぜなら、山口県内を貫く列車の方が所要時間はかかっているからだ。

東海道本線の熱海から新所原の所要時間を見ると、乗り換え1回でおよそ3時間。一方、山陽本線の岩国から下関の所要時間を見ると乗り換えなしで3時間30分となっている。おそらく岩国から下関を普通列車で乗り通す人が少ないことや、静岡県内を走る列車の多くが窓に背を向ける形で座るシートに対し、山口県内を走る列車の多くは景色が見やすいタイプのシートということが「いつまでたっても山口県」の声が出ない要因となっていると思われる。だが、今回紹介する列車に乗れば「まだ山口県なの?」と思わず声が出てしまう、かもしれない。

岩国を午前7時16分に出発する下関行の普通列車は、瀬戸内海に沿う形で南下し、柳井へと向かう。そこから西にある光市、さらに北西にある周南市へと向かい、8時31分に周南市の中心部である徳山に到着する。そして徳山で時間調整のため21分も停車する。

山陽新幹線の時刻表を見ると、新大阪6時50分発の「さくら543号」が徳山に8時41分に到着することから、この列車からの乗り継ぎする人のために考慮したダイヤだと思われる。さらに岩国と徳山を直線的に結ぶ岩徳線の時刻表を見ると8時49分に徳山に到着する列車があるので、この列車との接続も考慮していると思われる。多方面からの列車の接続を考慮したダイヤは利用者にとってはありがたいが、岩徳線の列車が岩国を出るのは、この列車の3分後の7時19分。電化された複線区間を高速で走る山陽本線列車が、距離が短いとはいえ単線で列車交換のための長時間停車がある上、非電化区間で運行速度が遅い岩徳線の列車に追いつかれるのは「残念」と言えるだろう。

そんな屈辱的な(?)追いつかれ方をした列車は8時52分に徳山を出ると44分後の9時36分に新山口に到着する。そしてこの駅で29分も停車する。新山口でも名古屋7時06分発の「のぞみ273号」や、宮野9時08分発で途中の山口を9時36分に出る山口線の普通列車に接続する関係で長時間停車するのだろうが、徳山で21分も停車して、ようやく走り出したと思ったら44分後に再び29分も停車とはのんびりすぎる走り方だ。先ほど述べた通り山陽本線は全線複線で電化されている。特急列車も運行されていないので、列車の通過待ちのために長時間停車する必要はない。貨物列車は多数運行されているが、最高速度は普通列車の方が早い。そのような環境でこの走りっぷりは残念だ。

新山口を出ると長時間の停車はなくなり、11時16分に終点の下関に到着する。岩国から下関までの所要時間は4時間ちょうど。この列車の前を走る岩国6時42分発の下関行は3時間21分、1本後の岩国8時46分発の下関行は3時間27分なので残念さが際立つ。

さらに、この残念な列車に下関で接続する小倉行の普通列車に乗ると小倉に到着するのが11時46分。東京を7時12分に出た「のぞみ9号」の小倉到着が11時53分。岩国から普通列車を乗り継いで小倉に到着する時間と、東京から新幹線で小倉に到着する時間がほぼ同じというのもなかなかの残念ぶりだ。

そんな残念な感じを味わうのにぴったりだった「青春18きっぷ」だが、残念なことにこの冬から仕様が大幅に変更され、普通列車を使った日帰り旅行には向かないチケットとなってしまった。そのため、この列車の残念な感じを味わうためには岩国から片道3080円の乗車券、もしくは岩国から下関の区間を含む乗車券を購入して乗るのがベターとなる列車となってしまったが、年末年始、お時間のある方は乗車して残念な感じを味わっていただきたい。

JR西日本 山陽本線 岩国7時16分発 下関行


本記事は「一個人」2025年1月号に掲載した内容の増補版です。
写真提供◉PIXTA

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渡辺雅史

時刻表好きが嵩じ「時刻表探検家」を名乗るフリーライター。自宅に所蔵する時刻表は国内、海外のものを合わせて500冊以上。雑誌や書籍への執筆のほか、ラジオ番組の構成作家なども行う。著書に「銀座線の90年(河出書房新社)」「東京駅コンシェルジュの365日 業務日誌に見る乗客模様(交通新聞社新書)」など。

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