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リスキリングとは何か? 今の時代に必要な学び直し

取材・文/横関寿寛 撮影/増本雅人

人生100年時代に「学び直し」を。そんな声が聞こえてくる中で、リカレントやリスキリングなどの横文字を「よくわからない」で済ませてしまってはいないだろうか?  今、必要な情報を学び直しの第一人者が語る。

定年退職後の20年が40年に人生100年時代をどう生きるか

 最近はよく「人生100年時代」と言われるようになりました。人生100年時代になると、かつてのような60歳で定年で、後の20年は65歳まで再雇用で働くとして、残りの15年は退職金や年金で悠々自適といったこれまでの〝常識〟は通用しなくなります。定年退職後の時間が20年から40年になって、ではその40年をどう生きればいいかといった新しい問題が生まれてきます。

 一方、人生80年時代の60歳で定年退職する一般的なキャリアでは、30代までは収入や与えられる地位といったものがどう推移するかを示すライフシフトエネルギーカーブ(キャリアの充実度やエネルギー)は順調に右肩上がりでシフトしますが、40代で頭打ち、50代で大きな下り坂になって、60歳で定年後は継続雇用……といったように、キャリアの充実度や仕事への情熱は大きく下がります。管理職を経験したような優秀な社員でも、55歳前後で役職定年になったところで大きく下がり、60歳で定年した後の事情は同じです。かえって優秀な社員だっただけに、継続雇用で与えられる責任や権限のない仕事に対してやりがいを見出すのは難しいかもしれません。これでは定年後の40年は思いやられるばかりです。

 つまり人生100年時代は、ある段階での「ライフシフト」(生き方を変える)が必要になってくるのです。ですから今、その準備として「学びなおし」の必要性が言われるようになっているのです。

大事なのは現実を直視し自分の人生を自分で考えること

 そこでリスキリングやリカレント教育といったカタカナ言葉が出てきます。もちろん厳密には違った意味を持つ言葉ですが、次の段階で必要な知識や技術を身につけるという意味では同じです。一番肝心なのは、学びなおしをどう動機づけるかで、これが一番難しいのです。

 ほとんどの人が周りと同じようにこれまで安定していた社会・経済の中で真面目に一生懸命仕事をしてきたわけですが、それだけに今までのモデルが通用しなくなってきているといってもなかなかピンと来ない。変化の激しい時代ですから、会社の中にいても、会社の方としては何か新しいことをやって欲しいんだけれども会社としてそれを示すことができないということもあります。そうなると、社会や会社の変化についていけない人が出てくる。そこは自分で考えないといけないわけですが、それを今までしてこなかったから、自分で考えられないんですね。

 このギャップをどう埋めていくか。ですから学びなおしの基本は、自分から何をすべきか考えない人から、自分で未来を考えて新たなことを学んで、自分の未来を作っていく人に変わるということになります。

エネルギーカーブは上がらないいきいきと仕事するために

 少し嫌な話になりますが、ライフシフトエネルギーカーブがいったん下り坂になった後、回復することなく下りのみのエスカレーターにのったままのような感じになってしまう人がいます。そういった人の特徴としては、「やりたいことが不明」、「会社の看板と自分の実力を混同する」、「過去のことが忘れられない」、「働かないまま会社に居続けようとする」といったものがあります。いずれも与えられた仕事をこなしているだけで、自分にとって働くことの意味を考えていないことになります。こういった人を見て、若い頃は自分はああはなりたくないと思っていたとしても、年を取るといつのまにか自分がそうなっている事に気付くこともままあります。こういった人は残念ながら、ライフシフトすべき時にライフシフトを果たせないでしょう。やはり自分にとっての価値を考えながら、現実を直視する必要があるのです。

「人生100年時代」という言葉がよく聞かれるようになったきっかけは、ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授が16年に『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』という著書を著し、人生100年時代を提唱したからです。そしてその中で、「マルチステージ型」の人生パターンというものを示しています。

 これまではおおよそ20歳までの学生時代に送る勉強のステージ、20~60歳までの労働のステージ、60~80歳までの余生のステージの3ステージ型の人生が普通とされてきました。ところがこの40年間だった労働のステージが人生100年時代では60年に延長されるので、この60年間をマルチ(複数)なステージで過ごす必要があるというのです。その場合、60歳で定年するとして、定年前に次のステージに移行する準備をして60~80歳を第2の労働のステージにしてもいいし、もっと早めにライフシフトして50~80歳を第2のステージにしたり、あるいはさらにもう1段階のステージを用意するなど、様々な選択肢の組み合わせで過ごしてもいい。まさに「人生いろいろ」というわけですが、この次のステージに移るためには事前に「知の再武装」をする必要があります。そう、この「知の再武装」こそが学びなおしなのです。

 最初にお話ししたように、一般的なキャリアでは40代を頂点にして50代は下り坂になりますが、例えば40~50代でライフシフトに成功した場合、60を過ぎてエネルギーは落ちることなく上向きでシフトします。つまり「人生は、前の10年で次の10年をつくる」という一定のパターンがあるので、エネルギーが落ちてくる40~50代を有意義に過ごせる人は、その波の高まりを60代以降にも作れるようになるわけです。こういった10年単位の波に乗ること。「人生はライフシフトのサーフィンに乗ることだ」と早く気付いた人ほどライフシフトが可能になるのです。そういったイメージとライフシフトの目標設定が出来ていれば、逆にそのために必要な資格の勉強であったり、大学院で学ぶとか、今は学びの場が色々あるので、何を学びなおすべきなのかがおのずと決まってきます。

80歳まで現役のための「働き方改革」

 そのための具体的なサバイバル術として、毎日こなす仕事での「働き方改革」をする必要があります。いずれにせよ次のステージに移行するまでしばらく今の職場で働く必要があるのなら、まずは今ある仕事から「やりがい」を見出すようにしましょう。自分にとってのやりがいを意識し、それを大事にしながらどう働けば次の80歳までのキャリアに生きるかを考えながら働くのです。

 若手社員との付き合い方を学ぶのも良いでしょう。いずれにせよ元気なシニアとして周囲から愛され、必要とされて働くことは、彼ら彼女らと一緒に働くことでもあります。それは次のキャリアでの、シニアとしての働き方を学ぶことでもあります。

 また社外との接点を持つようにしましょう。将来、転職や独立・企業を行うには社外の人脈が欠かせませんし、自分のスキルを確認したり、自分にはなかった新しい刺激を受けることは学びなおしのための気づきには重要です。外の社会に出ることで何かに気付くことを「越境(えっきょう)体験」と呼んでいますが、この越境体験をするいう意味では、副業をしてみると経験の幅も広がりますし、独立・企業の準備にもなります。

 外の世界に目を向けて、今まで気がつかなかったことに気が付くようにする努力は最低限しないといけないと思います。そういう意味では、私が教える多摩大学大学院MBAがお薦めです(笑)。ここでは様々境遇は違いますが、学びなおしをしたいという点では同じ問題意識を持った仲間と2年間学ぶことになります。時に仲間と議論し、時に相談しながら次はどうしたらいいかを皆さん考えています。とても良い刺激になっていると思います。

 シニアには「シニア資産」とも言うべき価値があります。例えば産業用冷凍機メーカーで世界トップクラスのシェアを誇る前川製作所という会社では、50代以降の社員の豊富な経験や蓄積した知恵を発揮することをシニアの役割として期待しているため、実質「定年なし」としているのです。

 人口減少と元気な高齢者の増加を背景に、高齢者を雇用する企業は今後、さらに増えていくでしょう。これまでは清掃やマンション管理人、警備員などが高齢者が就きやすい仕事とされていましたが、世間がシニア資産に着目しつつあることで、技術や接客、海外でのマネジメントなど、豊富な経験やスキルを求められる雇用が増えています。

 自らのシニア資産を活用する道はほかにもあります。例えば社会活動に生かすNPOや大企業より長く働ける中小企業、地方での活躍などでも生かすことができます。地方のNPOはこれまでは60歳で定年退職した人たちの受け入れ先になっていましたが、65歳までの継続雇用が増えたことで65歳までの人材が不足している傾向にあります。収入は大きく下がるかもしれませんが、地域での役割を果たすことで更なる活躍の場が開くかもしれません。日本の企業の大半が中小企業であることは言うまでもありませんが、中小企業には高齢者が働く上でのメリットがあります。まず役職定年や65歳までの継続雇用は大企業に見られる制度で、中小企業でならもっと長く働くことが可能です。また地元での勤務も可能で、親の介護などの融通もききやすい。社員も少ないので、責任のある役職に昇進する道もあります。ライフシフトをきっかけに親の地元に転身するのもいいでしょう。地方は少子化でより労働力は不足するでしょうし、大都市生活のストレスから解放されますし、地域貢献も可能です。

毎日の生活で変化を感じたら学びなおしのタイミング

 学びなおしやライフシフトについて考えるきっかけは、会社の異動や私生活の変化でも何でもいいと思います。そういったきっかけに夫婦や家族で「自分たちの10年後はどうなっているんだろう」と話してみるのもいいかもしれません。そういったタイミングは自分の将来を考えるチャンスでもあります。

 結局、学びなおしというのは生涯にわたって自分の価値を創造できるかどうかに真剣に向き合うということなのです。価値を創造できる人は周囲から「引き合い」が来ますよね。そういう引き合いが来るような生き様というのを学びなおしで手にいれてもらいたいと思います。それに人口減少にも油断してはいけません。そのうち周囲は年寄りばかりになるわけですが、そうなった時に自分が本当に1人でも生きられるか、あるいは周囲の様々な変化にも耐えられるといった自力がすごく大事になります。そういう意味でも価値を生み出す人への自分像というのを目指して学び直し続けていかないといけない思います。

 マルチステージの60年を経てやっと引退という長い人生の時代、その60年の間に学びなおしを経ていろいろなステージを試し、自分らしく生きていきたいものです。

徳岡晃一郎先生
1957年生まれ。多摩大学大学院教授 、ライフシフトCEO。主な著書に『MBB:「思い」のマネジメント』(共著、東洋経済新報社)『未来を構想し、現実を変えていくイノベーターシップ』(東洋経済新報社)など他多数。

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