連載

2021/09/28

鉄路は古社名刹を目指す

鉄分多めの寺社めぐり 「聖地鉄道」の旅①

渋谷 申博

●写真/渋谷 申博

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寺社に由来する路線名が多い理由

京成金町線の前身は、人が車両を押して輸送する人車鉄道「帝釈人車鉄道」であった
 みなさんはご存知だろうか。
 鉄道の路線名には寺社に由来するものが少なくないということを。
 有名どころを挙げてみれば、JRの成田線・弥彦線・身延線・参宮線・日田彦山線、私鉄の叡山電鉄・能勢電鉄・水間鉄道・南海高野線・近鉄道明寺線・京阪石山坂本線・東武宇都宮線・東急池上線・西鉄天神大牟田線などなど。
 東武と京急にはともに大師線があるし(東武は西新井大師、京急は川崎大師へ向かう)、京成の「成」は成田山を意味している。
 これは参詣者の輸送が鉄道会社の重要な収入源となっていたからで、成田山や日光、伊勢神宮、金刀比羅宮といった有名寺社へは複数の路線が敷かれて熾烈な乗客獲得競争が繰り広げられていた。
 例えば、JR成田線の前身である成田鉄道は喫茶室つきの車両を、国鉄日光線と東武日光線は優等列車(特急などの豪華列車)を投入して競争を勝ち抜こうとしたのである。

 そのいっぽうで寺社に向かう路線には、零細な規模で営業を開始したものも少なくない。映画「男はつらいよ」シリーズで知られる京成金町線の前身は、人が車両を押して輸送する人車鉄道(帝釈人車鉄道)であったし、富士山の北登山口(吉田口)に向かう富士急行の前身は馬が車両を引く馬車鉄道(都留馬車鉄道)であった。住吉大社の参詣者などを運んできた大阪の阪堺電車上町線も、前身は馬車鉄道であった(大阪馬車鉄道)。
前身は馬車鉄道だった富士急
かつては今よりずっと多くの鉄道が寺社に向かっていた。たとえば、伊勢には伊勢神宮の内宮と外宮、そして朝熊山をつなぐ路面電車が走っていた。成田も成田山新勝寺と宗吾霊堂をつなぐ路面電車があった。金刀比羅宮が鎮座する琴平に至っては、4本の鉄路が走っていた(うち2本は現役)。
 こうした路線は経営難や戦争の影響、災害などで廃線に追い込まれ、人々の記憶から消え去っていった。冒頭にあげた路線たちは、これらの試練を乗り切ってきた鉄路なのだ。

お勧め聖地鉄道(入門編)3選

 寺社の参詣者輸送を目的として建設された鉄道を「参詣路線」と呼ぶ。だが、別の目的で造られた路線にも、寺社と深く関わってきたものがある。私はそれらも含めて「聖地鉄道」と呼ぶことにしている。
 主要な聖地鉄道とその沿線の寺社については近著『聖地鉄道めぐり』(G.B.)に書いたのでそれを見ていただきたいのだが、聖地鉄道というものについて、まだちょっとぴんとこないという方のために、お勧めの路線を3つ紹介したい。

 「聖地鉄道めぐり」のコンセプトは鉄旅も楽しみつつ寺社めぐりをすることなので、鉄旅(鉄道が主要目的の一つの旅)がなれていない方には路面電車がぴったりだろう。駅(停留所)間が短いので気軽に乗り降りができるし、一般的な鉄道とは違って道路にも線路が敷かれるので、寺社の門前に停留所があるところも多く、鉄道が参詣者輸送を重視してきたことが実感できるからだ。
広隆寺の門前を走る嵐電
お勧めの第一は、京都の嵐電(京福電気鉄道嵐山本線・北野線)。嵐電は京都を代表する観光の嵐山と壬生寺に近い四条大宮、北野天満宮に近い北野白梅町を結ぶ路線で、その沿線には有名寺社が多い。駅名になっているものだけでも蚕ノ社・太秦広隆寺・車折神社・鹿王院・等持院・龍安寺・妙心寺・御室仁和寺と、8つもある。
 路面電車なので、寺社や京都らしい町並みを背景にした写真が撮れるのも嬉しい。筆者イチ押しの撮影ポイントは、太秦広隆寺駅付近、車折神社裏参道の入口、御室仁和寺駅駅舎の3つ。
 太秦広隆寺駅から嵐山方面に少し歩くと、広隆寺の山門前に出る。ここを嵐電が通過する姿は撮り鉄ならずともカメラを向けたくなる。なお、広隆寺は国宝第1号の弥勒菩薩半跏像を安置することで有名。
車折神社の鳥居越しに見ることができる嵐電
車折神社は金運・良縁・厄除け・学業・芸能の御神徳(御利益)があり、とくに女性に人気がある神社だが、裏参道の入口が嵐電の車折神社駅に面しており、鳥居越しの嵐電のカットが撮れる。
御室仁和寺駅は嵐電唯一の社寺風駅舎がある。優雅な千鳥破風がついたその姿は京都らしい雰囲気を醸している。改札口からは仁和寺の山門が見える。
社寺風の駅舎が印象的な嵐電・御室仁和寺駅

たま駅長で有名になった和歌山電鐵も聖地鉄道

 東京では東急世田谷線がお勧め。三軒茶屋と下高井戸を結び、文字通り世田谷区内で完結する5キロほどの路線だが、見所は多い。
 下高井戸から3駅目、宮の坂駅の「宮」とは世田谷八幡宮のことを表わしている。源義家ゆかりの神社で世田谷の総鎮守。緑濃い境内は聖地と呼ぶのにふさわしい神々しさがある。 
 宮の坂駅からは豪徳寺も近い(かつては豪徳寺前駅もあった)。招き猫発祥の地の一つとして有名だが、独特の建築の本堂など広い境内には見所が多い。
豪徳寺の招き猫
さらに3駅乗ると松陰神社前駅。松陰神社は幕末の思想家・吉田松陰を祀る神社で、その墓所でもある。その墓前には維新で活躍した弟子たちの墓・慰霊碑もある。境内には松陰が教えを説いた松下村塾も再現されている。
 三軒茶屋近くには江戸五色不動の一つ目青不動(最勝寺教学院)や厄除けで有名な太子堂八幡神社もある。
和歌山電鐵の「たま電車」
 三毛猫のたま駅長の登場で超ローカル鉄道から全国的に知られる路線になった和歌山電鐵も立派な聖地鉄道だ。沿線地図を見るとわかるように、和歌山電鐵の路線は日前宮駅のところで大きくカーブしている。これは紀伊国一宮の日前・國懸神宮に少しでも近づけようとした努力の跡だ。こんな荒技が使えたのも、その前身が軽便鉄道という小型の汽車が走る路線であったから。もともとこの路線は日前・國懸神宮と竃山神社、伊太祁曽神社への参詣者輸送を目的に建設されたので、神社への近さは重要なアピールポイントだったのだ。ちなみに、この3社を巡拝することを西国三社参りといい、今でも人気の巡礼となっている。
 伊太祁曽神社は伊太祈曽駅から徒歩5分、竃山神社は竈山駅から徒歩10分。いずれも『古事記』『日本書紀』に語られる神を祀り、和歌山が神話の舞台であることを教えてくれる。
貴志駅(和歌山電鐵)
貴志駅(和歌山電鐵)
たま神社の狛猫
 和歌山電鐵沿線の聖地はこの3社だけではない。列挙するときりがないのだが、あなたが神社好き、鉄道好き、猫好きのいずれかであるのなら、ぜひお参りしておきたいのが、たま神社だ。猫の顔を模した駅舎がインスタ映えする貴志駅のホームにあり、初代猫駅長たまが祀られている。
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WRITTEN BY

渋谷 申博

しぶや・のぶひろ
1960年東京都生まれ。早稲田大学卒業。

神道・仏教など日本の宗教史に関わる執筆活動をするかたわら、全国の社寺・聖地・聖地鉄道などのフィールドワークを続けている。
著書は『図解 はじめての神道と仏教』(ワン・パブリッシング )、『一生に一度は参拝したい全国のお寺めぐり』、『聖地鉄道めぐり』、『秘境神社めぐり』、『歴史さんぽ 東京の神社・お寺めぐり』、『一生に一度は参拝したい全国の神社』、『全国 天皇家ゆかりの神社・お寺めぐり』(G.B.)、『神社に秘められた日本書紀の謎』(宝島社)、『諸国神社 一宮・二宮・三宮』(山川出版社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 仏教』(日本文芸社)など多数。

しぶや・のぶひろ
1960年東京都生まれ。早稲田大学卒業。

神道・仏教など日本の宗教史に関わる執筆活動をするかたわら、全国の社寺・聖地・聖地鉄道などのフィールドワークを続けている。
著書は『図解 はじめての神道と仏教』(ワン・パブリッシング )、『一生に一度は参拝したい全国のお寺めぐり』、『聖地鉄道めぐり』、『秘境神社めぐり』、『歴史さんぽ 東京の神社・お寺めぐり』、『一生に一度は参拝したい全国の神社』、『全国 天皇家ゆかりの神社・お寺めぐり』(G.B.)、『神社に秘められた日本書紀の謎』(宝島社)、『諸国神社 一宮・二宮・三宮』(山川出版社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 仏教』(日本文芸社)など多数。

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