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速さが自慢の列車なのに追い越されてしまう!東京9時24分発 仙台行 やまびこ131号〜残念時刻表を読み解く超ニッチ企画!~「渡辺雅史の残念な鉄道時刻表」第8回

なぜこんな時刻表(ダイヤ)になったのか? 残念時刻表を読み解く超ニッチ企画第8弾!
 ※時刻表は記事最後に掲載


東京から上野、大宮を通り、北の方向を目指す東北、北海道、秋田、山形、上越、北陸の6つの新幹線。時刻表を見ると、9割以上の列車は東京を出ると上野、大宮と停車している。東北新幹線の「はやぶさ」、北陸新幹線の「かがやき」といった停車駅を少なくして速さを売りとする列車も、ほとんどが東京、上野、大宮と停車する。

そんな中、東京からの下りの新幹線のうち「はやぶさ7号」「はやぶさ13号」「はやぶさ47号」「やまびこ・つばさ131号」「かがやき503号」「とき311号」の6本だけが上野を通過。東京、大宮と停車して各地へと向かう。このうちの1本、「やまびこ・つばさ131号」の進行方向後ろ寄りに連結されている「やまびこ131号」が今回紹介したい残念な列車だ。

上野を通過する新幹線には共通する特徴がある。それは終着駅まで最小の停車駅、最短の時間で結ぶというものだ。「はやぶさ7号」「はやぶさ13号」の東京〜新函館北斗(しんはこだてほくと)までの途中停車駅は大宮、仙台、盛岡、新青森のみ。所要時間は3時間57分(他の「はやぶさ号」は4時間以上)、仙台行の「はやぶさ47号」の所要時間は1時間30分。「かがやき503号」も東京〜敦賀(つるが)までの途中停車駅が大宮、長野、富山、金沢、福井のみで所要時間は3時間8分と、「かがやき」で最速。東京〜新潟を1時間29分で結ぶ「とき311号」は、大宮〜新潟の間をノンストップで走る。

今回注目する「やまびこ131号」仙台行は、前7両に「つばさ131号」新庄(しんじょう)行をつなげ、「やまびこ・つばさ131号」として運転される。切り離しを行う福島までの途中停車駅は大宮のみで、他の「やまびこ号」「つばさ号」が停車する宇都宮や郡山を通過する。

2つの列車は福島で切り離しを行い、「つばさ131号」は米沢、山形、天童(てんどう)、さくらんぼ東根(ひがしね)、村山、大石田(おおいしだ)と停車して新庄へ、「やまびこ131号」は福島からノンストップで仙台へ向かう。「やまびこ131号」はすべての新幹線が停車する大宮、切り離しを行うために停車する福島と最小限の駅しか停車していない。東京〜仙台の所要時間は1時間46分。「はやぶさ号」と比べると所要時間はかかるが、この列車の1本前の「やまびこ53号」の東京〜仙台の所要時間は2時間4分、1本後の「やまびこ55号」は1時間54分。「やまびこ号」で1時間40分台で走るのはこの列車しかない。

ではなぜこの「やまびこ131号」が残念な列車なのか。それは福島で前方に連結されている「つばさ131号」を切り離し、山形方面へ出て行くのを見送ってから仙台へと動き出すため、福島に8分も停車。その間に「はやぶさ13号」に追い越されてしまうからだ。

東京〜仙台を1時間40分台で走る「やまびこ号」はこの列車だけ。反対方向を走る列車には1本もない。上野を通過する最速の「やまびこ号」にもかかわらず、福島で切り離し作業などを行うために8分も停車させられ、その間に「はやぶさ号」に追い越される。そんな扱いが残念でならない。さらに時刻表を読み込むと、前述した1本後の「やまびこ55号」が「はやぶさ号」に追い越されることなく仙台に到着していることが確認できるので、その残念さが際立つ。

なぜ、このような残念な列車が運行されているのか。それはこの列車のダイヤが「つばさ131号」のために設定されているからと思われる。「つばさ131号」は今年デビューしたE8系を使用。新型車両は宇都宮〜福島の間を時速300キロで走行ができる(旧型、E3系は時速275キロ)。さらにほとんどの列車が停車する赤湯、かみのやま温泉を通過。東京〜山形を最速の2時間22分で結んでいる。「つばさ号」を最優先にさせた結果、残念な「やまびこ号」が誕生したのだろう。

そんな残念な列車ではあるが「やまびこ号」は「はやぶさ号」よりも特急料金が安く設定されており指定席に乗車の場合、「はやぶさ号」より320円安い。さらに全車指定席の「はやぶさ号」に対し「やまびこ号」には自由席もあるので、自由席乗車なら850円安い。お盆休みや年末年始などの指定席の料金が上がる混雑期であれば、差額は1250円にまで広がる。コスパという観点から考えると、「はやぶさ号」に追い越されるものの「やまびこ131号」は使える列車と言えるかもしれない。

東京9時24分発 仙台行 やまびこ131号


本記事は「一個人」2024年7月号に掲載した内容の増補版です。情報は発行時のものです。

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渡辺雅史

時刻表好きが嵩じ「時刻表探検家」を名乗るフリーライター。自宅に所蔵する時刻表は国内、海外のものを合わせて500冊以上。雑誌や書籍への執筆のほか、ラジオ番組の構成作家なども行う。著書に「銀座線の90年(河出書房新社)」「東京駅コンシェルジュの365日 業務日誌に見る乗客模様(交通新聞社新書)」など。

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