神秘的な自然の中に、日本古来の信仰と祈りが息づく和歌山。真摯な祈りに今も満ちる高野山、神が御座す聖域である熊野と、ここにしかない情景がある。鉄道に乗り込み、心身を蘇らせる旅へ。さぁ出かけよう。
【南海高野線】弘法大師空海の祈りに包まれる聖地へ
壇上伽藍・根本大塔:弘法大師が高野山開創にあたり、真言密教の根本道場として建立。根本大塔の朱色はケーブルカーのモチーフに。写真/アフロ
山岳区間を悠々と進み霊峰・高野山へ
紀伊半島の中央、険しい山々を抜けた先に現れる神秘の街、高野山。「奥之院」「壇上伽藍」の二大聖地を中心に「金剛峯寺」を本山とした117の寺院が密集し街を形成している。
瑞々しい豊かな自然に覆われた場所では、「全ての物に命がある」と説いた空海の教えが千年以上経った今も息づき、変わらぬ祈りが捧げられている。奥之院で深い瞑想を続けて人々を現在も救い続けているとされる空海に会いに行き、命のつながりや互いを思う心を改めて感じては。
現存する日本最古の私鉄・南海電鉄が運営する路線の一つ、高野線。その名の通り高野山へ向かう鉄道で、大阪市のなんば駅から和歌山県・高野町の極楽橋駅を結んでいる。極楽橋駅からは高低差328mを昇る高野山ケーブルカーに乗れば、約5分で聖地高野山の玄関口である高野山駅へ到着。高野山内の周遊は南海りんかんバスがあり、山上エリアの移動も快適だ。
高野線は大正時代に遡る。1925(大正14)年に汐見橋〜高野下駅間が開通し、昭和初期には高野下〜高野山間がつながりほぼ現在の形に。「紀伊山地の霊場と参詣道」として高野山が熊野三山などと世界文化遺産に登録されるずっと前から、参詣客や地域住民の足として地域を支えてきた。
観光列車こうや花鉄道「天空」 五感で自然を楽しむ工夫あり
山上に広がる聖地へ向かう特別仕様の列車こうや花鉄道「天空」は、高野山麓の橋本〜極楽橋駅間の19.8㎞を走る。車両は真言密教の根本道場におけるシンボルとして建立された根本大塔をイメージした朱色のラインが特徴的な外観。展望デッキでは車輪や線路が奏でる音を聴きながら高野山の涼やかな風を感じられる。座席は3枚続きの特大窓から景色を楽しめる「ワンビュー座席」、家族や友人と特別な時間を過ごせる4人掛けの「コンパートメント座席」、運転席の展望を体験できる「先頭展望席」などがあり、旅時間を彩る。
こうや花鉄道「天空」が到着する極楽橋駅はケーブルカーとの乗換駅であり、2020年にはじまりの聖地としてリニューアルされた駅舎内装が見どころ。高野山は山内全てが寺の境内で、極楽橋は俗世と高野山(聖域)を区切る橋とされる。はじまりの聖地である極楽橋駅でその世界観に触れて心の準備を整え、ケーブルカーに乗り込もう。ケーブルカーはこれまでよりさらに急勾配を進む。車両はスイス製で、根本大塔をモチーフにカラーリング。こちらも大型窓で、斜面を自らの足で登り下りしているような臨場感を楽しめる。
宿泊なら山内に朝の勤行や護摩焚きなどが体験できる宿坊のほか、高野下駅には駅舎ホテルもある。時間を忘れ、悟りの世界を感じられる旅を満喫しよう。