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高知東生『ありのまま生きる』WEB版【第3回】50代後半からの人生はまさに「今を楽しむ適齢期」

著:高知東生 撮影:増本雅人

講演、出版、SNSで依存症への理解を広める発信が話題を呼び、今や俳優業に留まらず、作詞に小説執筆とマルチに活躍する高知東生さん。芸能界の第一線から一度は地の底に落ちた男がいま、ありのままの自分を語る。雑誌『一個人』の大好評連載のWEB増量版第3回!


 僕は今年59歳になります。あと1年で還暦!?と自分でもビックリしますが、「なんだ還暦ってまだまだ若いな」というのが正直な気持ちです。そして50代こそ新たな生き方や挑戦ができる年だなと実感しています。僕の場合は、52歳の時の逮捕でそれこそ人生がひっくり返りました。

 自慢の女房を傷つけ、仕事も人間関係も全て失い、ゼロどころかマイナスからのスタートでした。今は芸能の仕事に戻らせて頂いていますが、戻った時にはネットのコメント欄で「芸能界に戻るなんて甘えてないで一般社会で地道に働け」とバッシングを受けました。僕はそれに声を大にして言いたい!50才を過ぎた何のスキルもない、覚醒剤を使ってたおっさんを雇ってくれる一般企業なんてないから!
 実際、僕は事件を起こした自分から芸能界に戻ろうと働きかけることなんて怖くてできませんでした。だから、残されたわずかな人間関係の伝手をたどって一般企業に就職しようと行動しました。そしてことごとく断られました。

 そんな僕を見て声をかけてくれたのが、依存症団体の仲間と演歌歌手の先輩でした。俳優しかやってこなかった僕が、講演したり演歌を歌う……そんなことできるはずがないと思いました。でも、「人前に出て表現をする」というスキルだけはある。だとしたらやるしかありません。それしか当時の僕には生きていく術がなかったのです。

 そして悪戦苦闘しながらやっていくうちに、得意とまではいきませんけど、楽しくなっていきました。僕は段々「俳優にこだわらず『表現者』として生きていこう」という気持ちになっていきました。もちろん手を差し伸べてくれた方々のお陰で新たな生きる道を見つけることができたのですが、こうして僕がなんとか生き延びられた要因は2つあると思っています。
 1つは「役割」を見つけたこと。どん底にまで落ちた僕が「回復していく過程を見せる」という役割を自覚できました。薬物事件で逮捕された人の中には「そこには触れないで欲しい」という人の方が多いと思いますが、そのセルフスティグマを突破できたことは大きかったです。
 そしてもう1つは「今を生きる」と思えたこと。この「今を生きる」ということは古くから伝えられていますが、若い頃はこれがなかなか難しい。残りの人生が長いですし「これで一生食っていけるのか?」ということを考えてしまうでしょう。人生を楽しもうと思っても辛抱しなくちゃならないことも多い。

 ところが50代、それも後半になってくるとだいぶ重石がなくなってきます。「残りの人生、自分が生活できる分だけ稼げればいい」という環境なら、新しいことにもチャレンジしやすい。50代後半からの人生はまさに「今を楽しむ適齢期」だと思います。また、外的要因で大きいのは、見栄を張る馬鹿らしさに気づく年代なのと、見栄を張る体力がなくなること。僕は酒を一切やめました。周りを見ても同じように感じている人が多いようです。見栄を張る必要がなくなると、その分無駄な付き合いも、無駄な金も使う必要がありません。新しいチャレンジに挑む時間と資金ができます。

 その上もちろん個人差はあると思いますが、50代ともなると「大金を稼ぐより、社会貢献をしたい」という考えになっていく人も多い。「自分の経験やスキル、人間関係なんかを若い人達に引き継いでいきたい」「社会に欠けているサービスや支援を補填するような事業がしたい」「日の当たらない場所で苦しんでいる人の力になりたい」という思いを持つようになります。
 こうした「金」よりも「道」を残したいという生き方の人には、経験、気力が充実し健康もまだそれほど損なわれていない50代から新しい挑戦を始めるのは最適ではないかと思います。僕も、「しくじった人がやり直しやすい社会」という道を残したいと思い挑戦し続けていきます。

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